1.はじめに

 一言で言えば、計量器の校正をする事業所の能力を審査し、お墨付きを与える仕組みが
計量法認定事業者制度(JCSS)である。計量法で決められているが、強制ではなく、認定を欲しい人が申請する。
 計量器の校正とは、より精度の高い計量器と比較することである。したがって認定は、精度の高い、素性がはっきりしている計量器を持っていること、また、その計量器と比較する能力、技術を保有していることの確認である。
 その計量器のことを計量標準と呼ぶ。ではその計量標準はどのようなものなのか。

2.計量標準とは
 「計量標準」は古い歴史を持っている。「もの」を測るのに、長さとか質量などの量はたとえば25ミリメートル、3メートル、100グラム、1キログラムと単位付きで測る。単位付きで測るということは、どこかに単位の元があると言うことである。その元が計量標準である。
 最近改めて、計量標準が話題になっているのは、世界中に通用する共通の計量標準を使おうとなったからである。もちろん従来から共通の計量標準を使おうという取り決めはあった。しかし、1・世界標準、つまりSI単位から導かれているという保証、2・世界に通用するという保証、そして3・精度の保証、この3つの保証まではされていなかった。一つの工場で原料から製品までの製造が行われている場合には、工場独自の標準を作ってあれば問題はない。しかし、今や部品の組み立て生産方式が主流になってきたこと、そして製品が精密化したことから、単位と精度が不明のままでは発注もできず、購入部品は不合格になり、生産も出来なくなることになる。対策として部品の受け入れ検査を行えば二度手間になり、簡単にはチェックできず、コストも上がる。素性の分かった計量標準を使っていること、必要な精度の範囲内にあることがあらかじめ分かれば問題なく、安心できることは明らかである。
 このような背景から、計量標準を整備し、供給できる体制が必要とされるようになった。

3.計量標準の種類
 経済活動、社会活動がスムースに行われるためには、互いに使用する計量の単位が共通でしかも十分に正確であることが必須条件であることは当然である。このために世界の各国は、メートル条約に加盟し、国際的に同じ計量単位を用い、それぞれの国で世界標準に合わせて国家計量標準を設定し、供給している。国家計量標準は計量・計測の尺度を規定するものだから、公共財であるとともにその国において唯一の存在でなければならないので、いずれの国でも国立の計量標準研究所が置かれ、そこから計量標準を供給しているのが一般である。わが国でも以前には、通商産業省工業技術院の計量研究所、電子技術総合研究所等(現独立行政法人産業技術総合研究所)で標準が維持され、校正依頼等の形式で供給されていた。あるいは、基準器検査制度(検定用標準の検査)を利用して標準の校正を行っていた。しかし、国家標準の維持、供給する手順等が確立されていなかったので、国家標準へのつながりも信頼性を欠くことが多かった。このために、平成4年に計量法が改正され、国家計量標準の設定・整備及び計量標準の供給制度(JCSS)が設けられた。JCSSは標準がどのぐらいの精度(不確かさ)で、国家標準とつながりを持っているかを体系的に証明するトレーサビリティ制度である。一般にトレーサビリティとは、原材料の出所を明らかにできるように、製品から原材料まで遡って記録を調べることができることを言う。最近では食料品のトレーサビリティが注目を集めている。計量のトレーサビリティは少し内容が異なる。手持ちの標準がどんな標準によってどのぐらいの確からしさで校正されているか、校正に使用した標準を校正したときの標準はと次々に確かめて行って、最後に国家標準までたどり着くシステムを計量トレーサビリティ制度(JCSS)と呼んでいる。どの段階でも校正値と確からしさ(「不確かさ」として表示される)の証明書がついて回る。
 具体的には、JCSSとは国家標準との繋がりがはっきりしている標準を使って第3者の計測器を校正できる能力を持った事業者を認定することである。認定された事業者の発行する校正証明書からはどのぐらいの信頼度(不確かさ)で国家標準につながっているのかが推定できる。JCSS校正事業者を認定しているのは、独立行政法人製品評価技術基盤機構の認定センター(IAJapan)である。
 さて、こうなると、単に国家標準を保有しているだけではすまなくなり、国家標準は1・変化しないこと、安定であること、2・再現性があること、校正に使えること、3・精度が高いこと、信頼性があることなどが必要になる。JCSS制度がスタートしたときはこれらの条件を満足できる標準はそれほど多くなく、初年度は11事業区分31種類であった。1997年末でも計量標準は39種類にとどまっており、他の主要先進国と比較して、少なかった。このままでは国際経済、研究開発において不利になるとして、国として目標を定め、2005年には180種類、2010年には250種類の計量標準を整備することを目指している。2002年の進捗状況はJCSS対象計量標準は76,対象外計量標準59の整備が進み、計135種類の計量標準が供給できるようになった。わが国の計量標準の整備は独立行政法人産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ)が中心になって進められている。
 現在JCSS事業の区分として、23区分が定められているが、平成14年2月現在、認定事業者の認定申請における事業の区分として、18区分が供給されている。今後数年間で標準供給体制を整備し、最終的には23区分全てが供給される予定。
 現在の事業は下記の通りに区分されている(括弧内は未供給の事業区分)。
1) 長さ
 [端度器] [レーザ] [線度器/標準尺]
  [線度器/直尺・鋼製巻尺] [測長器及び測微器]
2) (体積)
3 質量
 [分銅及びおもり]
4) 力
 [力計] [一軸試験機]
5) 圧力
6) (粘度)
7) (時間)
8) 流量

 [流量]
9) 熱量
 [熱量標準物質]
10) 電気等
 [直流電圧] [直流抵抗] [直流電流] [交流電圧]
  [交流電流] [電力] [電力量] [高周波 電圧]
  [高周波電力] [レーザパワー]
11) (磁界の強さ、起磁力及び磁束密度)
12) 電磁波の減衰量及び電磁波の電力密度

 [電磁波の減衰量]
13) 温度
 [抵抗] [放射] [ガラス製温度計]
14) 光
 [光度] [光束] [照度] [分光放射照度] [分布温度]
15)音圧レベル
16)振動加速度レベル
17) 放射線及び放射能

 [照射線量] [照射線量率] [吸収線量] [吸収線量率]
  [カーマ] [カーマ率] [線量当量] [線量当量率]
18)硬さ
19) (衝撃値)
20) 湿度

[露点計] [電子式湿度計]
21) 標準物質
 [標準ガス] [零位調整標準ガス] [ph標準液]
  [ph標準液以外の標準液]
22) 加速度
23) 密度

4.計量標準の信頼性保証(国際相互比較)
 国として計量標準を指定し、標準の維持・供給ができるようになったとして、世界に通用するかは別の問題である。海外で他国の計量標準が信頼できないとなれば、改めて輸入国で再計量することになる。これをさけるために、互いの国の計量標準を認め合う努力が続けられてきた。1995年10月の第20回国際度量衡総会において国際相互承認協定(MRA、Mutual Recognition Arrangement )の原案作成が決定され、1997年2月に第1回国家計量標準研究所長会議で原案が可決され、1998年2月に第2回国家計量研究所長会議で仮署され、1999年10月の第21回国際度量衡総会で、38カ国の国家計量標準研究機関の代表者により計量標準相互承認協定(MRA、Mutual Recognition Arrangement )が本署名された。このMRAは、それぞれの国家計量標準の同等性を承認すること、それぞれの国家計量機関の発行する校正証明書の承認することの2つの部分から構成されている。同等性は計量標準の国際比較によって裏付けされ、同等性の程度が量的に示される。各国の国家計量標準機関が発行する校正証明書を互いに承認するための条件としては校正業務の品質システムが整っていることで、具体的にはISO/IEC17025に適合していること、第3者の査察(ピアレビュー)でそれを確認することである。このMRAによって国際的に通用する計量標準体制ができたが、実際に個々の量について、互いに比較して、国際的に同等性を保証できることを確認する必要がある。しかし、世界中の国を一回の国際比較で評価することは技術的に不可能である。一つの試料を持ち回り測定するとなると、一巡するのに数十年掛かることになり、現実的でない。このために、世界をいくつかの地区に分け、各地域ごとに国際比較を行い、一方各地域の代表間で比較(これを基幹比較(Key comparison)と呼ぶ)することが行われている。我が国はアジアの地域機関であるアジア太平洋計量計画(APMP)の議長国、幹事国であり、MRAを積極的に推進する立場にある。このほかに、MRAを補完するために、1999年の「計量標準分野における日米協力に関する実施取り決め」のように2国間協定も行われている。

5.JCSS認定取得手順
 JCSS申請は誰でもできるが、ただしすでに校正の実績があり、その校正業務の運営状況がJCSSの要求する条件を満足していることが必要である。その要求条件は

  1. 特定標準器(国の計量標準)による校正を受けた標準(常用参照標準と呼ぶ)を保有していること。ただし直接校正でなく、特定標準器の校正を受けた標準による校正でもよい。いずれの場合にも、不確かさが記載されたJCSS証明書が必要である
  2. 校正の技術能力を証明できること。たとえば、持ち回り試験に参加し結果を得ていること。適当な証明機会がないときには、審査時の立ち会い試験(測定監査と呼ぶ)で確認するケースもある
  3. 品質システムが構築されていること。ISO/IEC17025に適合する品質システム が構築され、マニュアル、手順書等の文書化が完成しており、記録も完備していること
の3つである。  準備の第1段階は既存の校正システムをチェックし、上記の3条件を満足しているか確認することである。ISO・IEC17025に照らして、不適当なところがあれば、修正する。不確かさを算出するためには、校正室に関してある程度の期間の記録が必要になろう。
 次にシステムの状態を文書にする。文書化は日本人にとって不得意な分野であるが、ISO9000sでの経験がかなり役立つ。
 準備が終了したら独立行政法人製品評価技術基盤機構適合性評価センター認定センターの様式に沿って申請書を作成、同センターへ提出する。
 申請を受理したら認定センターは審査チームを編成する。審査チームはまず書類審査を行い、不備な個所があれば、改善要求を出す。問題がなければ現地審査へ移る。
現地審査で、マニュアル等の文書と照合するとともに、ヒアリング、模擬校正を通じて、システム、技術能力のチェックを行う。不適合があった場合には改善報告書を提出しなければならない。
現地審査終了後審査チームは審査報告書を作成し、認定センターの評定委員会に提出する。評定委員会の評定の結果、認定されれば認定センターから認定証が交付される。また、認定事業者一覧(ダイレクトリー)等に公表される。


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